未来王の孤独

U 〜二人だけの夜〜


















彼が…

私の中に入ってきた。
爪先から頭上に突き抜ける痛みにも似た衝撃が走る。
その衝撃はやがて快楽の渦を巻き、熱い炎と化す。
全ての物が形を変え、時空の間に迷い込む…
男と女の違いが、あからさまに分かる瞬間、女は男を受入れ、受け留める。
男は攻めて、そして放つ。
何故、この行為を皆するのだろう…いや、しなければいけないのか…。
この世の生き物に与えられた宿命。
しかし、本当は子孫繁栄の為だけの営みな筈。

だが、それでも、二人は己をさらけ出し、空しくも…はかなくも…そして、狂おしくも…
ただ楽園に堕ちていく事だけを考えるのである…

しばらくの時を経て、彼の全身の力が消えた…。

急に愛おしさが込み上げる。
私は彼の髪をかきあげ、耳元にキスをした。
そして、力いっぱい彼を抱き締めた…

離さない…
離さない…

「苦しいよ…」
耳元でささやく彼の声はほとんど声になってない。
それでも、私は手の力を緩めなかった…。









あのキスをした夜から、私の彼に対する気持ちは大きくなっていた。
だか、彼は何ごともなかったように普段と変わる事はなかった。
男と女が、ある一線を越えると、女の方が気持ちのもろさや不安が増大してしまう…
私はその切ない気持ちを押さえながら彼といつものように旅を続けていた。
だが、そんな私を彼はちゃんと知っていた。
彼は時折、他の仲間の目を盗み、私の傍に来て、そっと手を握る。
その事が幸福である事を私は心の言葉で握る手を通し伝えてた。








私と彼がお互いを確認し、始めて愛し合ったのは、同じくキングを目指して、この地にやって来た強いグループがいる事を、仲間の一人が情報を仕入れてきた時だった。

しばらく、野宿をしながら旅をしていた私達は、大きな山脈が続くふもとの小さな村に宿を見つけた。
彼は他の8人いる仲間を、キングになる為の目指すべき道、日本を始め、各国から集まりつつあるシャーマンの偵察に行かせた。
この村に残ったのは彼と私だけであった。
彼は宿賃をかけたくない理由もあったのだろうが、私と二人になりたいと密かに思っていた事は私には分かった…
私には彼の考えてた事が見えてしまったのである。
そして、私がその事を感じ取ってしまった事を彼も見通してた。
皆を見送った後、彼は私の手を引いて、部屋に導いた。



部屋に入ると、ここの宿の女将が部屋の準備をしていた。
彼女に案内され、ダイニングで夕飯を食べに向かった。
この村に宿はこの一軒だけで、今の時期は客もほとんど来ないらしい…。
料理はこの女将が作ったと思われる、この辺の家庭料理らしく、ご馳走と言われるにはほど遠い。
が、野宿で小動物や魚、木の実など、その日暮しで生活している私には、あきらかにそれはご馳走であった。
彼はあどけない顔で美味しそうにスープをすすっている。
私はおだやかに流れるこの時につかの間の幸福を覚えてた。

「ハオ様、彼らはいつ戻って?」
「さぁ…、わからない、早ければ明日…中には帰らないヤツもいるかもね」
「え…?」
「僕の仲間だと分かった時点で、僕を怨んでる奴らに殺される可能性はあるからね…」
彼は表情ひとつ変えずに話してる。
「ハオ様は、これまで沢山の人達を殺してる…可能性はありますね…」
「ん…やるなら僕をやればいいのに…」
「ハオ様は強すぎるから、太刀打ち出来ないのですよ」
「ふ…」
このダイニングで食事をしてるのは私達だけである。
女将はキッチンの方なのか、姿は見えない。
静かな空間にお皿にナイフとフォークがぶつかる音だけが響く…
「ハオ様?」
「ん?」
「ハオ様が私に声を掛けてきた時…」
彼は私と話すより、どちらかというと、食べる方に夢中になってる。
「いつだっけ?」
「3年前…」
「…そうか…、もう3年も経つんだね…」
彼はそう言いながら、ふっと、窓の外に目をやった。
「あの時、私がハオ様の仲間になろうと言う誘いを断ってたら…」
彼はこっちを見た。
「私もハオ様に殺されてた?」
私はちょっとイタズラっぼい目で彼を見てた。
「ふ…かもね…」
彼もイタズラっぼい目を私に返してきた。
「恐ろしい人…」





食事が終わって、部屋に戻る。
彼はそのままシャワー室に向かった。
私は窓に向い、外を見た。
アメリカの広大な自然…
まだ、夕日がかすかに残る山並みに小さな灯がまばらに付き始めている。
深い茜色の空には光かり出そうとする星のちいさな瞬き…。
私は、この夜、これから確実に起こるだろう彼との出来事に、期待をしつつも、あきらかにそれ以降にどうなるか、予測のつかない二人の関係の行き先に不安を抱いてた。



彼がシャワーを終え、次に私がシャワー室に行った。
野宿生活が多く、シャワーなど久しく浴びてない。
川や泉で身体を拭き、髪の毛を洗う…
もちろん、彼も他の仲間もそうであった。
また、しばらくシャワーにはお目にかかれないかも知れない…
私は全身を念入りに洗った。
部屋に戻ると、彼はバスローブ姿で、ベットに横になり、窓の方を見ていた。
「気持ち良かっただろう…たまには宿に泊まらきゃ駄目だね、ハハ…」
そう言ってこっちを見た。
「そうですね、他の皆だって…」

「隣においで、ここから星が見えるよ」
ベットの窓側にスペースを空けながら、彼が言った。
私は彼の言葉に従い、彼の隣に横になって、窓の方を見た。
すると、すぐさま彼は背後から私に腕を回してきた。
一瞬ドキッとした。
彼の息が私の耳をかすかにくすぐる…。
「星…綺麗…ね」
「うん」
「…」
「…」
「ハオ様…このまま、時間を止められない?…」
「ん…?それは、いくら僕の力をなしても、無理だよ」
彼は後ろから私に頬ずりをしながら、くすっと笑った。
「ハオ様、もしも、グレートスピリッツを手に入れる事が出来なかったら、また転生して未来に蘇る?」
「もし、グレートスピリッツを手に出来なかったら?…ん〜それはどうかな…」
私は彼の方に寝返り、彼を見つめた。
「…?」
「もし…また未来に蘇ることがあるならば…ハオ様…」
「ん…?」
「…私も、蘇らせて欲しい…、そして、またハオ様のお傍に置いてほ…」
最後まで言う前に、彼は私にキスをしてきた。
長い口ずけだった…そして
「これが、答えだよ…」
彼が微笑んだ。

幸福すきて…
苦しい…
愛しすぎて…
苦しい…

込み上げる、涙が全ての視界をさえぎる…

彼がその涙を吸い取ってくれた…
そして、私の額、頬、鼻、口、首筋 、耳…何度も何度もキスをする…。

薄暗い部屋に月あかりが射して、私達を照らしてる。
時折、見つめる彼の瞳はキラキラと輝いている…。
「綺麗だよ…なんだか、普段の君とは別人のようだ…」
私は彼の髪をゆっくりとかき上げながら、言う
「同じよ、ハオ様…」
「女の人って…綺麗なんだね…始めて、そう思ったよ…」
「ハオ様、きっと、今の私達は最高に綺麗だと思う…ハオ様も、私も…私達がこうしている、この姿が…」
「君の温もり…この安堵感…全身に伝わってくるよ、そして…僕の、今のこの苦しい思いは…君の全てが欲しいという思い…これが愛なの?」
「ハオ様…分かりません、愛には形がないから…」
少しの間が流れた後、彼が言い出した。
「どうすればいい?」
「え…?」
「君の全てを今、僕のものにしたい…、…でも…」
「…」
彼はちょっと恥ずかしそうに一度、目を伏せ、それから私の耳に口を寄せて、囁いた…

「初めて…なんだ…」

『…!』
そんな事は考えても、いなかった…。
すでに一人の男と見ていたからだ。
それにしても…上手すぎる。
女をその気にさせる雰囲気…そしてキス…
もし、彼が普通の人間の子として、普通に生活していたら、女の子が放っておかないだろう…
そのくらいなテクニシャンだ。
「ハオ様…」
「…だから…導いて…君が欲しいから…」
そう言いながら、彼は照れを隠すかのように私の口を塞いだ。
 









続く







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2004 夏





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