ドラゴンクエストX
〜天空の花嫁〜
『君と…』
第一章 旅人の恋
美しき娘
| アルパカを後にして、半日ほど歩いた後、は自分が住んでいた村サンタローズに着いた。 アルパカで聞いた話は間違いでなかった。 美しいサンタローズの村は廃墟と化して、見るも無残な状態であった。 「これは酷い…」 ピエールがの家の崩れた残骸を手に取りつぶやく。 かつて父パパス、そして身の回りの世話をしてくれていたサンチョと暮らしていた家は半壊し、自分がここに住んでいたという記憶が薄れていくような錯覚さえ起きる。 「そういえば…昔、父さんが洞窟によく出掛けていった」 はここに住んでいた記憶を静かに辿っていたのだが、思い出した様にそう言うと村奥にある洞窟に向かった。 「あ!さん、待って」 ピエールが慌てて後を追った。 ーー天空の剣ーー サンタローズ奥の洞窟奥深くではパパスが密かに隠していたこの剣を見つけた。 パパスは、に母マーサを探し出し、この世の何処かにいると言われる”勇者”と、残る天空の兜、鎧、盾を探し出して欲しいという手紙を残していたのである。 古びた手紙に一滴の涙が毀れ落ちる… 『父さん…』 父パパスの強い思いが手紙から、ひしひしと伝わってくる。 自分がこれからやらなくてはいけない事が、この手紙によって、はっきりと理解出来た。 そしてこの時、は自分に課せられた運命を確信した。 もう、迷わない、父の遺思を受け継ぎ総てはパパスがなし得なかった事を受け継ぐ。 これから、また始まるであろう、過酷な人生に、無きパパスは絶対護ってくれるだろう… はパパスの手紙を胸に新たな一歩を踏み出した。 途中、ラインハットに出向き、懐かしい友に会った。 ヘンリー王子だ。 彼はちゃっかりと数年前に一緒に脱走した、マリアを妻に迎えていた。 どこで、この二人がいい仲になったかなどとは聞かない。 多分、あの神の塔に3人で行った数日間にこうなったのだと、直に分った。 「お前も早くお嫁さんをもらったらどうだ?結婚もなかなかいいよ、」 幸せそうに笑う二人を見て、もフッ…と、心が和む。 苦笑いをそのまま残し、はまたの再会を約束して、ヘンリー夫婦と別れた。 港町ポートセルミに着く。 町の酒場で、強い戦士を探していると言うカボチ村から来た人物の願いを聞き入れ、一度カボチ村に出向いてみた。 そのカボチ村は毎夜のように現れる魔物に畑を荒らされ、村人が困っているいらしい… 村長の話を聞き、魔物が棲み着いているという洞窟に向った。 洞窟の奥に行くと、キラーパンサーがある剣を守りながら、、こちらの様子を伺っている。 攻撃を仕掛けても、キラーパンサーはこちらを襲うどころが、何かを訴えたい面持ちでを見ていた。 ーーチロル? あの時のベビーパンサー、チロルと確信したは袋の奥に思い出の一つとして、持っていた当時ビアンカが着けていたリボンをキラーパンサーの前に静かに置く。 暫くして、キラーパンサーは鼻をクゥ−ンと鳴らし、の顔を嘗め回した。 「チロル!生きていたのか!」 チロルは父パパスが殺された時に一緒に居た。 あの時、自身は殆ど気を失っていて、覚えていなかったが、一部始終を見ていたチロルはパパスが灰と消えた現場に残されてあったパパスが持っていた剣を、いつか会えるだろうの為に、大事に守ってくれていたのである。 キラーパンサーとして、大きく成長したチロルを抱きしめ、は暫し、泣き崩れていた。 畑を荒らしていた魔物を連れてきたということで、カボチ村の住民は驚き戸惑う。 「もういい、とっとと出ていってくれ…」 こちらの言い分も聞き入れる事無く、は村を追い出された。 「しようがないか…こんな事もあるさ…」 は気を取り戻し、再びポートセルミに向った。 ポートセルミに戻ると、これから必要不可欠になる、船に乗らなければ、先に進めない。 早々、港に向ったのだが、船は当分出港はしないとの事。 しかし、港に居た男がサラボナに棲むルドマンと言う富豪なら、船を所有していて、貸してくれるかも知れないと情報を提供してくれた。 ルドマン… 何となく、聞き覚えがあるが、は思い出せなかった。 夜になって、酒場に行くと、ステージでは、ダンサーが踊り、酒場の中は活気付いていた。 が酒を注文し、カウンターに座ると、暫くして、何処からか一人の女性が隣に現れた。 気にも留めず、は酒を飲み出す。 「あんた、旅の人?何処に向うの?」 の顔を横から覗き込み、その女性は話し掛けてきた。 「これから、サラボナに向かう、明日にでも立つ予定だけど…」 彼女と目が合う。 睫毛がに長く、濃い目の化粧をしたその女性はより、遥か年齢が上であることが、一目で分った。 「そ…、サラボナね、そういえば、そこの大富豪が一人娘の結婚相手を探してるそうよ、なんでも、見事に相手に選ばれたら、家宝のなんとかの盾をくれるという事らしいけど…」 「…!」 は彼女の言葉に酒を持つ手を止めた。 「あら…?あんたも花婿候補になる?」 の動揺に気が付いたのか、女性は笑いながら、を見た。 「い…や…」 女性はの手にあるグラスにそっとボトルの酒を注ぐと、顔を横に近づけてきた。 「ね、あんた、見たところ女を知らなそうなんだけど…今夜、あたしとつき合わない?」 「…え?」 …と、突然言われた言葉に顔を見るが、はこの女性が何を言っているのか、直に見等が付いた。 「結婚するにしても、どちらにしても、今のままじゃ男としては一人前じゃないわよ、あたしがあんたを男にしてあげる…どう? ま、ここで断ったら、女に恥をかかせる事になるわね…ふふ…」 「……////」 何も言えなくなって、は戸惑いながら、一気に酒をあおった。 「此処の二階の奥があたしの部屋、待ってるから、来てね」 女性はの頬に軽くキスをすると、そう言って離れて行った。 頭の中は酔いが回ってるのか、錯乱状態である。 大人の女の怪しい香が、の鼻に残ったまま、消える気配もない… くそっ…! は今夜だけ!と、すかさず、勘定を払い、席を立つと、半ば欲に任せた身体をそのまま2階に踊らせた。 「あんた、いい男だね、でもあたしが惚れちゃ、あんたに迷惑を掛ける事になるね…」 抱き合う前に名前を明かしてくれた、このリリーという女性がの身体に擽るように指を這わせる。 「今の僕は結婚どころか、恋人も作れないし、作る気持ちもないよ」 「所詮、旅人なんだ…あんたのこれからの旅、あたし、影ながらひっそりと応援することにするわ、寂しくなったら、此処に来ても構わないよ、あたし…当分はこの町に居ると思うから…」 リリーはそう言うと、の唇を塞いだ。 旅の途中の息抜きとでもいうのか、は今までの自分の過去、さまざまな状況、父や母の事を考えることも無く、リリーの胸の中で、ぐっすり眠る事が出来た。 「いい事でもあったんですか?」 ピエールがの顔を見て、聞いてきた。 「えっ?いや…何も…」 夕べの事を考えると、気恥ずかしくなる。 人間として、男として、大人になりきれていなかったのかも知れない自分が、女性の身体の温もりを感じ、ほんの僅かな一瞬、至福の思いをした事で、何かが違って見えた。 それは、本人でもよく分からない… 眩しい太陽の光がの黒髪を、一層輝かせ、空の青さはその色を一層濃くしていた。 『リリー、ありがとう…』 は心の中で呟いていた。 サラボナに向う途中には必ず通らなければ、行けないとう祠と洞窟があるのだが、そこで行き交う人々が口を揃えて、ルドマンの一人娘の話をしていた。 その娘は誠しやかで、白い薔薇の如く美しく、兎に角素晴らしい女性らしい。 そこまで、噂が広がっていると、流石のも気になり出すのも当然。 皆の噂に、サラボナに着くと、きっとその女性にもお目にかかれる…と、は少しばかり、心を弾ませ、足を一路サラボナに向けた。 河を渡り、少し南に下った位置にサラボナの町があった。 町に隣接する大きな塔がある、一体何の為の塔なのかはよく分からない。 しかし、町そのものは、とても穏やかな雰囲気ではあった。 早々、町に入る… …と、突然 「ワンワン!!」 正面から、犬が走ってきた。 「あっ!」 と、驚く間もなく、犬はいきなり、の足に纏わり着きだした。 「ワンワン…!!」 尻尾を大きく振っているので、犬はを警戒してるわけではない、反対に気に入られてるようでもある。 「リリアン!リリアン…!」 その時、町の中ほどから、透き通るような女性の声が聞こえてきた。 「あ!すみません、その犬を…」 息を切らし、ブルーの髪の毛を手でかき上げながら、女性がこっちに向かいながら、言っている。 「えっ…?あぁ…」 その言葉には犬をヒョイと抱き上げる。 間もなくして、やっと、女性がの所まで来た。 「すみません、この子が急に足り出してしまって…」 女性はそう言いながら、を見上げた。 「…ぁ…いえ…」 髪の毛と同じブルーの瞳が西日を反射して、大きく輝いた。 「ごめんなさい…」 ピンク色の艶やかな口元が綻び、その女性がに微笑む。 その瞬間、時が止まる… 心臓に矢が刺さるとは、こんな時の事を言うのだろうか、ほんの数秒…意識がさ迷う程の目眩が、を襲ってしまった。 「あのォ…?」 声を掛かられて、慌てて意識を戻すと、女性はの腕から、犬を取り戻そうとしている。 「あ、すみません、はい…」 犬を抱き直すと、女性は犬に向って、何かを言っている。 そんな彼女の言葉が殆ど、耳には入らず、はその美しい女性に釘付けになっていた。 「この子ったら、家族以外にはなつかないのに、不思議ですわ…」 「…え?あぁ…、そうなんですか…」 「お見かけしない、お顔でが…旅のお方ですか?」 「はい…」 「そうですか、貴方様に神の御加護がありますよう…どうか、お気を付けてくださいませ」 その女性はそう言うと、深くお辞儀をして、の前から去っていった。 茜に染まる、サラボナの町は中央の噴水がオレンジ色に光り輝く。 その中で、暫し呆然と立ちすくむ。 彼はこの時、この女性があの噂で名高い、美しいフローラであるという事にまだ気が付いていなかった。 |
美しき娘 終
2004・5・28
haori
戻る